相続税対策を10年やったら、相続税が爆上がりした話

出口戦略・相続

相続税対策を10年続けた結果、わが家の将来の相続税は爆上がりした。

矛盾しているように聞こえるけど、本当の話だ。そしてこれは、たぶんわが家で起きた、いちばん幸せな失敗だった。

今日は「渡す」の話。窓口で言われるまま始めた相続税対策の保険を、10年かけて答え合わせした記録だ。

2016年、母は「相続税」を恐れていた

2016年。母が、子ども3人に少しずつ財産を渡しておきたい、と言い出した。きっかけは、どこかで聞いてきたこの話だった。

「生命保険なら、相続人1人あたり500万円まで相続税がかからない」

子ども3人なら1,500万円の非課税枠。母はこれを狙って、保険の窓口に向かった。

ここで大事なことをひとつ。当時、僕は母の全資産を知らなかった。母がいくら持っていて、相続税が実際いくらかかるのか、家族の誰も計算していなかった。「相続税は怖い」「保険なら非課税枠がある」。その2つだけで話が進んでいた。

そして窓口で勧められたのが、米国ドル建ての終身保険だった。契約日は、2016年8月10日。この日付は、最後にもう一度出てくる。

仕組みはこうだ。契約者は子ども(僕)。母が毎年、保険料に充てるお金——年8,488.95ドル(当時のレートで約90万円)——を僕に贈与し、僕がそのお金で保険料を払い込む。贈与額は、暦年贈与の非課税枠110万円に収まる設計。払込は10年間。死亡保険金は150,000ドル。

……と、今でこそスラスラ書けるが、当時の僕は何ひとつ分かっていなかった。為替リスクも、保険の手数料も、この契約形態で母の狙う「500万円の非課税枠」がどう機能するのかも。「ドル建てのほうが利率が高くてお得ですよ」。それだけで契約した。

5年間、ずっと引っかかっていた

契約してから数年、ずっと頭の片隅にあった。

「これ、いいカモにされてるんじゃないか?」

でも、それを確かめる知識が僕にはなかった。保険証券を見ても、数字の意味が分からない。予定利率と実質利回りの違いも、手数料がどこに隠れているのかも。だからモヤモヤしたまま、毎年払い続けていた。

母の「相続税対策の旅」は続いていた

一方の母は、保険だけでは足りないと思ったのか、その後も相続税対策を探し続けていた。証券会社の勉強会に通い、本を読み、ラジオを聴いた。

そのラジオで出会ってしまったのが、第1話に書いたFPの投資講座だ。結果はポンジスキーム。FPは後に詐欺で逮捕された。

振り返ると、わが家の相続税対策の旅は、ろくなことになっていない。窓口ではよく分からないドル建て保険を契約し、ラジオでは詐欺に引っかかった。

ただひとつの救いは、その詐欺師逮捕のニュースが、僕が本気で勉強を始めるきっかけになったことだ。

2020年、ようやく答え合わせをした

第1話に書いたとおり、僕は『お金は寝かせて増やしなさい』で投資の仕組みを学んだ。インデックス投資が腑に落ちたとき、ふと思った。「あのドル建て保険、今なら中身を見られるんじゃないか」。

保険証券の数字を初めてちゃんと直視して、そこでようやく、自分が入っているものの正体を理解した。

  • 商品:低解約返戻金型の米国ドル建て終身保険(払込10年)
  • 10年以内に解約した場合:戻るのは払込額の最大69%(1年目はわずか32%)
  • 10年満了時の解約返戻金:86,010ドル(払込累計 84,889.50ドル)
  • 死亡保険金:150,000ドル
ジブラルタ生命Myページの画面。年間保険料8,488.95米ドル、払込累計額84,889.50米ドル(円換算10,459,575円)、平均保険料換算レート1米ドル=123.21円
実際のMyページ(2026年6月時点)。払込累計84,889.50ドル=1,045万9,575円。

見て、固まった。

10年かけて払った保険料は84,889.50ドル。満了時に戻るのは86,010ドル。増えるのは、たったの1,120ドル。10年我慢して、ようやくトントンだ。同じお金を同じ時期にS&P500に入れていたら、ざっくり2倍以上になっていた期間に。

しかも、途中で逃げれば3割没収。気づいた時点で残されていたのは、「損して逃げる」か「増えないと知りながら満了まで払う」かの二択だった。

これが「低解約返戻金型」の仕組みだ。途中でやめたくならないよう、最初から逃げ道が狭く設計されている。窓口でどう説明されたのかは、正直覚えていない。ただこれだけは言える。分かっていたら、入っていない。

円安が、本当の実力を隠していた

ややこしいのが為替だ。契約した2016年は1ドル100円ちょっと。今は150円前後。だから円に換算すると、この保険は増えて見える

でもこれは、保険が優秀だったわけじゃない。ただの円安だ。中身(ドルベース)は横ばいのまま、たまたま為替が円安に振れただけ。ここを混同すると「ドル建て保険って意外と良いじゃん」と勘違いする。実力と運は、分けて見ないといけない。

数字で言うとこうだ。僕らが10年間で払ってきた保険料の平均レートは1ドル=123.21円(払込累計84,889.50ドル=1,045万9,575円)。いまのレートは150円前後。円換算の「含み益」の正体は、ほぼ全部これだ。

円安の影響は、もうひとつあった。保険料は8,488.95ドルの固定だから、円安が進むほど円での支払いは膨らむ。2025年の振替額は127万円。母からの贈与は110万円の枠内に抑えているので、超えた分は僕たち子どもが自分の財布から払っている。為替リスクは、運用成績だけじゃなく、贈与の枠まで侵食してくる。契約したときには、誰もそんなことを考えていなかった。

もうひとつの答え合わせ——そもそも相続税、かかったのか?

投資を勉強すると、副作用で税金の勉強もすることになる。そこで初めて知った。相続税には基礎控除がある。

3,000万円+600万円×法定相続人の数。わが家なら相続人は子3人で、4,800万円だ。

当時の母の資産を後から思い返すと、基礎控除の内側か、超えてもわずか。つまり——必死に対策していた相続税は、そもそもほとんどかからなかった可能性が高い

敵のサイズを測らずに、武器だけ買っていたのだ。

教訓はシンプルだ。対策の前に、現状把握。資産の棚卸しと基礎控除の確認が先。保険の契約は、その後でいい(というか、たぶん要らない)。

そして相続税は、爆上がりした

ここからが、この話のいちばん皮肉なところだ。

2021年、僕は母の4,000万円をS&P500に一括投資した。2026年現在、1.5億円を超えている。

相続税がほぼかからなかったはずのわが家は、立派な課税世帯になった。将来の相続税は、文字どおり爆上がりだ。10年かけて保険で守ろうとした非課税枠は1人500万円。インデックスが5年で増やしたのは1億円。守る額と増える額の、桁が違った。

でも——これでいいのだ。

増えた相続税の何倍も、相続財産そのものが増えている。仮に税金で1割2割持っていかれても、手元に残る額は「対策」していた頃の比ではない。税金を恐れて資産を増やさないのは、本末転倒だった。相続税が増えるのは、資産が増えた証拠だ。

解約しなかったんじゃない。できなかった

「そんなに微妙なら、さっさと解約すればよかったのに」と思うはずだ。僕も何度もそう思った。でも、できなかった。

理由は前に書いたとおり。10年以内に解約すると、69%しか戻らない。動けば3割没収。だから動けなかった。納得して続けていたんじゃない。人質を取られていたのだ。

米国ドル建終身保険(低解約返戻金型)のご契約の推移表。1年目の解約返戻率32.1%、9年目69.3%、10年目101.3%
契約時にもらった「ご契約の推移」表(実物)。返戻率は1年目32.1%(赤枠)→10年目で101.3%(緑枠)に跳ね上がる。

証拠がこれだ。1年目に解約していたら、8,489ドル払って戻るのは2,730ドル——返戻率32.1%。5年目でも62.1%。9年目でようやく69.3%。それが10年目の払込満了と同時に、101.3%へ跳ね上がる

ちなみにこの表を最後まで目で追うと、40年後——母が98歳——まで持ち続けても、返戻率は165.5%。年に1%ちょっとしか育たない。どこまで行っても、インデックスの代わりにはならない設計だった。

ただ、その人質がひとつだけ仕事をした。おかげで母の贈与は一度も止まらず、10年間完走した。現金の手渡しだったら、どこかの年で止まっていたかもしれない。商品としては失敗。でも「毎年の贈与を10年やり切る」という一点だけは、この縛りが連れてきてくれた。

2026年8月10日、速攻で解約する

そして、その10年がもうすぐ明ける。2026年8月10日——契約日からちょうど10年。低解約返戻金の縛りが解けて、返戻率が101.3%に跳ね上がる日だ。

その日が来たら、速攻で解約する。もう決めている。10年付き合った保険に、未練はない。

戻ってきたお金の行き先も決めてある。リベ大の両学長がおすすめしている、日本の高配当株だ。10年間ただ寝ていたお金には、これからは配当という形で働いてもらう。

兄と妹の保険も、同じ8月に10年を迎える。2人のNISA口座も僕が管理しているから、同じように解約して高配当株に乗せ換える予定だ。母から3人に渡ったお金が、10年越しに、ようやく動き出す。

今の僕なら、こうする

10年の答え合わせを終えた、僕の結論はこうだ。

① 相続税対策の保険は、検討しなくていい

「1人500万円の非課税枠」という売り文句は魅力的に聞こえる。でも、その枠のために中身の見えない保険商品を10年抱えるのは割に合わなかった。守れる節税額より、その資金を成長させたときの増え方のほうが、桁違いに大きい。

② 素直にNISAで、インデックスか高配当株

資産を増やすフェーズならインデックス(S&P500や全世界株)。増やしたお金を「使いながら」暮らしたいなら、インデックスに加えて高配当株という選択肢もある。第1話に書いたとおり、わが家も配当金で生活に彩りを足す方向に舵を切っている。

③ 渡すなら、暦年贈与→子・孫がNISAで運用

子や孫に渡したいなら、年110万円の暦年贈与で現金を渡す。受け取った子は、それを可能な範囲で自分のNISAでインデックスに入れる。手数料ほぼゼロ、中身は丸見え、贈与と運用が同時に進む。低解約返戻金という名の人質も取られない。

注意点(ここは正直に)

毎年同じ金額を同じように贈与し続けると、「最初からまとまった額を分割で渡す約束だった(定期贈与)」とみなされ、合計にまとめて贈与税がかかる可能性がある、と言われることがある。その都度贈与契約書を残す、金額や時期に変化をつける、といった対応が一般的だ。わが家は税理士に確認しながら進めている。

それと大前提として、贈与税・相続税のルールは変わる。暦年贈与の扱いも近年見直しが入っている。この記事は「わが家がやってきたこと」の記録であって、最新の制度や個別の最適解は、必ず税理士などの専門家に確認してほしい。僕は理学療法士であって、税の専門家ではない。

まとめ

  • 母の相続税対策は「1人500万円の保険非課税枠」狙いから始まり、窓口で低解約返戻金型のドル建て終身保険になった
  • 10年で払込84,889.50ドル → 満了時返戻86,010ドル。増えるのは約1,120ドル。しかも10年以内の解約は最大69%(1年目は32%)=3割没収
  • 円換算で増えて見えるのは、ただの円安。実力と運は分けて見る
  • そもそも当時の資産なら、相続税はほぼかからなかった可能性が高い。対策の前に現状把握
  • 息子の運用で資産は1.5億に。相続税は爆上がりしたが、財産はもっと増えた。節税より成長
  • 2026年8月10日に縛りが明けたら速攻解約 → 日本の高配当株へ(兄・妹の分も同様)
  • 相続税対策の保険は検討しなくていい。素直にNISAでインデックスか高配当株
  • 渡すなら暦年贈与→子・孫がNISAで運用。贈与契約書だけ忘れずに

8月に実際に解約したら、その顛末——返戻金がいくらで着金して、何を買ったか——もここで報告する。

そして次回は、同じ生前贈与でも「きれいに成功したほう」の話。2017年、僕が家を建てたときに使った「住宅取得資金贈与の特例」で、1,200万円を非課税で受け取った話だ。
公開しました:自己資金0円で3,760万円の家を買った話

※本記事は筆者個人の体験談であり、税務・投資の助言を目的としたものではありません。非課税枠の適用可否は契約形態などの条件によって変わります。制度の利用や運用判断は、税理士・専門家にご相談のうえ自己責任でお願いします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました