自己資金0円で3,760万円の家を買った——10年の相続税対策で、唯一きれいに決まった話

出口戦略・相続

2018年、僕は3,760万円の家を買った。財布から出した自己資金は、0円だ。

種明かしは単純で、母の1,200万円と、銀行の2,560万円。それで全部だった。

前回の記事で、わが家の相続税対策はろくなことになっていないと書いた。窓口で勧められたドル建て保険は10年寝かせてほぼ増えず、ラジオで出会ったFPはポンジスキームだった。でも、ひとつだけ、きれいに決まった対策がある。今日は予告していたその話——住宅取得資金の贈与1,200万円だ。

……と、その前に。こう書くと、「親の金で家を建てて、しかも非課税で得しやがって」と思う人がいるかもしれない。正直に言うと、僕も書きながら、その引っかかりがある。

だから先に答えておく。この1,200万円は、僕がねだったお金じゃない。前回から続いている、母自身の相続対策だ。生きているうちに、自分の意思で動かしたお金。そして僕は、もらった代わりに相続のとき、自分の取り分を1,200万円減らすと母に約束している。得をしたわけじゃない。順番を、前にしただけだ。

この約束の話は、記事の後半でちゃんと書く。けしからん、と思った人ほど、最後まで読んでほしい。

2017年、家を買うことになった

当時の僕は結婚して、賃貸アパートに住んでいた。家を建てる話が具体的になって、母に報告した。すると返ってきたのが、この言葉だった。

「それなら、1,200万円までは税金がかからずに渡せるらしいよ」

例の相続税対策の勉強を続けていた母は、この制度をどこかで仕入れてきていた。ドル建て保険のときと同じ行動パターンだ。ただ、結果はまるで違った。

仕組み——110万円とは別枠で、一発1,200万円

制度の名前は「住宅取得等資金の贈与税の非課税」。親や祖父母から、家を買う・建てるためのお金をもらうとき、一定額まで贈与税がゼロになる特例だ。

ポイントは、ドル建て保険の記事に出てきた暦年贈与の110万円とは別枠だということ。110万円ずつなら11年かかる金額を、一度に、非課税で渡せる。

当時(2017年契約)の非課税枠は、省エネ基準を満たす住宅なら1,200万円。一般の住宅なら700万円だった。

ここで制度がきれいに連動する。うちの家はフラット35S——省エネ性能などが基準を満たすと当初10年の金利が引き下げられる住宅ローン——が使える家だった。つまり、いい家を建てると、金利と税金が両方優遇される。バラバラに見える制度が、ちゃんと同じ方向を向いていた。

※2026年現在、この特例の枠は縮小されている(省エネ等住宅1,000万円・それ以外500万円)。要件も年々変わるので、これから使う人は国税庁サイトで最新を確認してほしい。

お金の全貌——自己資金0円の内訳

買ったもの
建物2,800万円
土地800万円
諸費用約160万円
総額3,760万円
払ったお金
母からの贈与1,200万円
フラット352,560万円
自己資金0円

ローンの中身も書いておく。35年・ボーナス払いなし。金利は当初10年が0.68%、11年目以降が0.98%。毎月の返済は68,510円、11年目からは71,043円。35年完走したときの総返済額は約2,990万円——利息と手数料で約430万円を銀行に払う計算だ。

フラット35の契約書面と償還予定表。借入金額2,560万円、当初10年金利0.680%・11年目以降0.980%、毎月返済68,510円、総返済額29,909,785円、団体信用生命保険加入なし
実際の契約書面と償還予定表(氏名・住所・契約番号などの個人情報は省いています)。「団体信用生命保険 加入なし」の文字も見えるはず。

もし贈与がなく3,760万円をフルローンで組んでいたら、月の返済は10万円を超え、利息はざっくり190万円増えていた。母の1,200万円の実質的な価値は、1,200万円+将来の利息190万円分。頭金とは、そういう働き方をするお金だ。

着金のタイミングだけは、間違えてはいけない

この特例、お金をもらう順序とタイミングの要件が厳しい。原則はこうだ。

贈与を受けた年の、翌年3月15日までに家を取得して住むこと。

うちの場合、売買契約のあと・入居の前に母からの振込があった。結果的に、要件どおりの順序だった。これが「家を建てるかもしれないから」と何年も前にもらっていたり、引き渡しが遅れて入居が翌年3月15日に間に合わなかったりすると、特例が使えず1,200万円にまるごと贈与税がかかる。調べると、この事故は定番中の定番らしい。順序だけは、本当に気をつけてほしい。

申告は、自分でやった

もうひとつの定番事故がこれだ。「非課税=申告不要」ではない。贈与税の申告をして、初めて非課税になる。黙っていたら、ただの申告漏れだ。

翌年の確定申告期に、戸籍謄本や登記事項証明書、売買契約書のコピーを揃えて税務署へ行った。正直、身構えていた。税務署は取り立てられる場所だと思っていたから。

実際は、窓口で「住宅資金の贈与の申告をしたい」と言ったら、書類の書き方まで丁寧に教えてくれた。申告に来た人間に、税務署は優しい。これは発見だった。税理士に頼まず、自分で完結できた。

兄と妹の話——二人だけの約束

ここからが、この記事でいちばん書きたかった話だ。

うちは3人きょうだいで、家を買ったのは僕だけだ。兄は実家暮らし、妹も家は買っていない。110万円の暦年贈与は3人平等を貫いてきた母が、僕にだけ1,200万円を渡したことになる。

もめなかったのか?——もめていない。ただし、母と僕の間には、ひとつの約束がある。

「相続のとき、僕の取り分を1,200万円減らす」

兄と妹に改まって説明したことはない。母と僕、二人だけの約束だ。

あとから知ったのだが、法律も同じ発想を持っていた。「特別受益の持ち戻し」——住宅資金のような大きな生前贈与は相続財産の前渡しとみなして、遺産分割のときに受け取った分を差し引いて計算する考え方が、民法に最初から書いてある。家族の感覚でたどり着いた結論が、法律のデフォルトと同じだった。筋は悪くなかったわけだ。

ただし、この約束には宿題が残っている

……と、ここまでなら「きれいに決まった話」で終わる。でもこのブログは正直に書くと決めているので、白状する。

その約束、形に残っているかどうか、僕は確認していない

母は「遺言書に書いておくよ」と言っていた。実家の金庫に、あると思う。——「あると思う」だ。中身も、形式も、そもそも本当にあるのかも、確認したことがない。

考えてみてほしい。この約束を知っているのは母と僕だけ。母に万一のことがあったとき、僕が遺産分割の席で自分から「僕は1,200万円もらっているから、その分減らしてくれ」と言い出す前提の設計だ。黙っていればバレない構造に、自分の誠実さだけが担保として置かれている。

さらに調べると、手書きの遺言書(自筆証書遺言)は形式不備——日付がない、押印がない、全文自書でない——で無効になる例が多いらしい。金庫の中で誰にも発見されないリスクもあるし、見つけても勝手に開封してはいけない(家庭裁判所の「検認」という手続きがいる)。

いまは法務局が3,900円で自筆証書遺言を預かってくれる制度がある(2020年開始)。形式チェック付き、紛失なし、検認も不要。金庫から法務局に移すだけで、この宿題はほぼ解決する。

次に帰省したら、母と遺言書の話をする。結果は、このブログで答え合わせする。

もうひとつ白状すると——団信に入っていない

実はこのフラット35、団体信用生命保険(団信)に入っていない。僕が死んでも、ローンは消えない。

「は?」と思った人、その反応が普通だ。でもこれは、わが家の保険に対する考え方——医療保険もゼロにした、あの理屈——とつながっている話で、長くなるので次回書く。

まとめ——なぜこれだけ、きれいに決まったのか

10年の相続税対策で、ドル建て保険は失敗し、住宅資金贈与だけが成功した。違いは何だったのか。

答えはシンプルで、「対策のために何かを買う」のではなく「どうせ買うものに、制度を当てた」からだと思う。

相続税対策のために保険や不動産を買いに行くと、だいたい売る側の都合に巻き込まれる。手数料の高い商品、よく分からない仕組み、断れない雰囲気。一方、家はもともと買うつもりだった。そこに非課税の制度を当てただけ。この順序なら、失敗のしようがない。

母から僕への1,200万円は、暦年贈与なら11年かかる金額を、一度に、非課税で、家という実需に変えた。父が遺してくれた保険金と、母が働いて貯めたお金。それが20年以上かけて育った4,000万円が、どこへどう流れていったのか——その配分マップの、これが2つ目のピースだ。

3つ目のピース(ドル建て保険の解約と、その後のお金の行き先)は、今年の8月10日に動く。前回の記事で予告したとおり、結果はすべてここで報告する。

※本記事は一個人の体験談であり、税務アドバイスではありません。筆者は税の専門家ではありません。住宅取得等資金の贈与の特例は限度額・要件が頻繁に改正されています(2017年当時と2026年現在では大きく異なります)。実行される際は国税庁サイトで最新情報を確認のうえ、税務署または税理士にご相談ください。

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